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されど、死ぬのはいつも他人ばかり|伊東宣明
2020.12.12.Sat
12.27.Sun
キュレーション 髙木遊
アーティスト 伊東宣明
主催 The 5th Floor 共催 HB. 協力 WAITINGROOM, 渡辺歯科医院, 五十蔵 問合せ info@the5thfloor.org
「されど、死ぬのはいつも他人ばかり」。 『物語』の終わりを示唆する碑文だ。終わらない『物語』など存在してはならない。 「されど」その接続詞には、デュシャンの死に対する哀愁と遺棄が込められている。この碑文を読む私たちの胸は締め付けられる。 伊東宣明はこれまで『死と生』『精神』『芸術』など、近代化の激流のなかで儀式化・制度化された鉤括弧付のテーマを中軸に制作を続けてきた。伊東はそれらの鉤括弧を取り外し、祭儀的な文脈から現実に解き放つことで、鑑賞者に鮮烈たるエモーションを喚起させてきた。 本展『されど、死ぬのはいつも他人ばかり』では、あらゆる出来事の不可逆性をテーマとする『時は戻らない』(2020)、風景の既視体験(デジャブ)と未視体験(ジャメヴュ)の隙間をテーマにした『0099』(2008)、芸術表現における物語論『フィクション』(2018)に加え、不可視かつ実体のない『死』への接触を試みる『回想の遺体』(2010)と作家が自身の肉体を分割し、再集積させる『蝋燭/切り花/眠り/煙』(2020)を紹介する。 これらの作品は通底して、儀式・制度化された事象を「脱鉤括弧する」手法を用いて、『死と生』『自己』『時』といった根源的かつ非実体的ものをテーマとしている。 これら『』付の事象は人間が作り出してきた『物語』である。そして、この諸『物語』の特徴は、内包される『時間』のあり方だ。『物語』における『時間』は、可逆的であり、さまざまな異なる時制の乱立が可能だ。しかし、現実において、私たち人間一個人が対峙する時間は、不可逆的であり、線形であり、かつ終わりがあるかのように振る舞う。こうした『時』の様相に対し、私たち人間は近代化、産業化、ありとあらゆるテクノロジーを駆使して抗ってきた。しかし、未だに克服——リアリティを伴った転覆——には至っていない。だからこそ人間は『物語』を生み出し、そのなかで『死と生』を享受する。『終わらない物語 Never Ending Story』とはよく言ったもので、私たちは『物語』の『終わり』に目を背け生きることはきっと叶わない。 『時』に飲み込まれるあらゆる事象は、現実にて物語化され、『』を、実体を獲得する。しかし、その実体は虚構と表裏一体になっていることを忘れてはならない。そして、『物語』において、『時』は一元的ではない。『』の外側にある、認知してこなかったもの、見えてこなかったものを、呼び起こすのが『時』に反逆する『物語』の役割なのである。 『されど、死ぬのはいつも他人ばかり』。 「あなたの死は、私にとって、もとより他人の死であるしかないわけですが、思いがけないほどの喪失感で──あなたと一緒に、自分の中の一部が欠け落ちてしまったような淋しさの中にいます」 山田太一は、寺山修司への弔辞においてこう述べた。人は死ぬ。『物語』は必ず終わる。人間一個人が自分自身の『物語』の終わりを見ることはできない。それは伊東というアーティストにとっても同じであろう。本展は、伊東によって紡がれる『物語』に私たちをいざなう。
髙木遊 1994年京都生まれ。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了、ラリュス賞受賞。 現在、キュレートリアル・スペースであるHB.Nezu およびThe 5th Floor ディレクター。ホワイトキューブにとらわれない場での実践を通して、共感の場としての展覧会のあり方を模索している。2022年3月より金沢21世紀美術館アシスタントキュレーター。 主な企画展覧会として「生きられた庭 / Le Jardin Convivial」(京都, 2019)、「二羽のウサギ / between two stools」(東京, 2020)、「Stading Ovation / 四肢の向かう先」(静岡, 2021)
伊東宣明 1981年奈良県生まれ、京都在住。2006年に京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)映像舞台芸術学科・映像芸術コースを卒業、2016年に京都市立芸術大学大学院・美術研究科博士後期課程修了、博士(美術)学位を取得。「身体」「生/死」「精神」といった生きるうえで避ける事のできない根源的なテーマを追求し、映像やインスタレーション作品を発表しているアーティストです。近年の主な展覧会に、2018年個展『フィクション / 人生で一番美しい』(WAITINGROOM/東京)、グループ展『CANCER THE MECHANISM OF RESEMBLING』(EUKARYOTE/東京)、2016年個展『アートと芸術家』(WAITINGROOM/東京)、グループ展『S-HOUSEミュージアム開館記念展』(S-HOUSEミュージアム、岡山、2016年より)、2015年個展『アート』(愛知県美術館 APMoA Project ARCH/愛知)、グループ展『GRAVEDAD CERO』(Matadero Madrid/スペイン)、2014年グループ展『牛窓・亜細亜藝術交流祭 – 瀬戸内市美術館』(牛窓シーサイドホール/岡山)、2012年グループ展『Me’tis -戦う美術-』(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA/京都)、2010年グループ展『レゾナンス 共鳴 人と響き合うアート』(サントリーミュージアム/大阪)などが挙げられます。