植物といかに意思疎通することができるか。
これはアナイス・カレニンが一貫して制作や研究を通して追究してきた命題である。ブラジル出身の彼女は、北部の先住民をその先祖に持ち、彼らに伝わる植物療法を幼少期から自らの手で行ってきた。その実践は、自身を取り囲む植生と対話を重ね、自らの身体を彼らのバイオシステムへと委ねることからはじまる。そしてそれは、近代以降の人間の論理による世界の認識をときほぐし、そうした論理とは別の知覚や思考へと自らを開く試みでもある。
こうした個人的な経験に加え、植物にまつわる哲学や歴史等のリサーチをもとに制作されたアナイスの作品は、彼らをとりまく種々のエージェントによるコスモロジカルな諸現象の連関[アソシエーション]の一端を可視化する。しかし、それら一つ一つを丁寧に追っていくと、ある瞬間から「全体」という言葉では語ることのできない(その使用はすでに一つのロゴスを前提としている)不可知のネットワークがその背後に繰り広げられていることに気づかされる。それにより彼女は、私たちにインストールされた「論理的(ロジカル)な」という語法がすでにして人間中心的であり、その歴史的な思考実践の脆弱性を顕にするのである。
さらに彼女の植物へ向けるまなざしは、個人的な植物との関係性を超えて、彼らとの関連創り出す文化や歴史にも向けられる。本展ではとりわけ、自身が育ったブラジルという土地における、植民による植生の人為的操作というダークヒストリーに焦点を当てる。それはポストコロニアルの問題群をエコロジーの視点から語る一つの視座の提示である。
哲学者のエマヌエーレ・コッチャは、ノンヒューマンの連関[アソシエーション]を有用性と秩序の論理に回収することを避けるため、すべての生が常に変化の途上であるとするメタモルフォーゼの考え方を提起する*。アナイスはこうした植物や彼らをめぐる非論理的な連関[アソシエーション]を、不可知な神秘として作品化する。そのような彼女の実践は、エコロジーにまつわる言説が横溢するいま、私たちにどのような問いを投げかけるのだろうか。
* エマヌエーレ・コッチャ『メタモルフォーゼの哲学』松葉類、宇佐美達朗訳、勁草書房、2022年(原著; 2020年)。